日本会社のしきたりをハンガリー企業のそれと比較すると、大きな違いは、昇格の背景にある人事ポリシー、昇格のプロセスとその回数である。
日本の通例では、他社で得た経験、資格などというよりも社内で実施された教育・研修、仕事の実績、他の従業員との協力能力、会社でのふるまいが重要視される。従って、キャリアーアップも一つの会社の中での昇格を意味し、より高いポジションに着きたい人が転職を考えることは滅多にない。

ヨーロッパ、其の中でハンガリーでは、反対の傾向が見られる。履歴、資格、違うところで積んだ経験の中身、採用以前に勉強したこと、集めた知識、リーダーシップの経験等により応募者に対し将来にオープンされる可能なキャリアパスが決まる。経験、資格というものは当社内での仕事の実績よりもはるかに影響がつよく、殆どの場合は採用の途端からいわゆるポジショントップ(将来的に達成できる一番高いポジション)が雇用者も、従業員もよくわかっているのである。例えばマネージャー、アシスタントマネージャージャーは勿論、場合によりアシスタントというポジションでも大学卒業又(前者の場合は)ある程度の管理職としての経験年数も厳しく要求される。そういったような資格要件が不足しているとそのような職位に永遠につくことができないのが当たり前である。
このような背景の影響で、組織の成り立ちが日本のそれと異なり、一般的に言えばオープンポジションの数がすくない、空席を基本的に外部から採用した人材でカバーする、資格、経験が昇格の前提にあるので、昇格の回数は限定される。それに昇格を希望し自分のキャリアを意識的に高めようと計画する従業員の数もよりすくない。肩上がりを望めるときは、進め方は別の企業に移ることである。そこで自分の経験などが違うレベルで評価され、前のポジションよりも高い職位に採用されることが可能となる。それが常識的なやり方である。
このような文化の中で社内教育というものも日本の企業に比べると、ボリュームが小さく、従業員のローテーションも意味はないので、ハンガリー企業では見られない。
従って、ハンガリーで人事の昇格システムを構築する際には、いつもとはすこし違うスラテジーを作る必要がある。日系企業のマネージャーによく聞かれるが、従業員も定期的に(例えば毎年)昇格を要求することはない。中には当然昇格願望の強い人もいるが、大勢の人が高いポジションに伴う責任、勤務体系、勤務時間、会議出席、人の前でのプレゼンテーションと報告などを避けたがっていると言える。
夫々の部署・ポジションについている人は定期的に昇格する組織背景を作る必要はないが、法的問題、特に平等取り扱いの問題を防ぐ為にも他の人事システムと同様に昇格制度も仕組みとして仕上げ、動かすことは不可欠である。しかしそのシステムの柱として設定される昇格基準とポジション移動のプロセスと回数が日本のそれと違う形を取るのは言うまでもない。


昇格制度を作るときに十分に注意をしなければならないのは、給料の問題である。ポジションだけを上げ、給料はそのままでもよいのではないかとよく日本人のトップから質問を受けるが、残念ながらそうはいかない。その理由としては少なくとも二つのことが挙げられる。先ずは、関連法規の厳しい規制である。同じポジションでどうような仕事をする従業員の給料が同じか、又仕事のボリューム、責任、内容などが変わると給料もそれに伴って上がるかが平等取り扱い局の好きなチェック項目である。6百万FTまでの罰金、従業員全員の給料制度の見直しとそのコスト、インセンティブからの削除 (インセンティブに申請できなくなるまたは既に申請した金額をもらえなくなる?)又当局の判決の影響で発生する新訴訟を避けたいのはどこの企業でも当たり前なことである。
もう一つの理由は、人事文化そのものに潜んでいる。従業員の給料をいらわないで、そのポジションだけ上げると、本人のモチベーションが下がるが、労働市場での価値、それによりキャリアーアップの可能性が大きく広がる。言い換えれば、転職すれば必ず収入が増えるという会社にとって不利益的な場面を作ってしまうことに繋がる。転職の要因として無論、給料以外のことも沢山あるが、現在のハンガリーでは経済的なものが圧倒的に影響している。給料、給与と経済危機によりかなり揺られた職場で安全で判断を下す人は多い。
最初の日系企業がハンガリーに進出してきたのは数十年前のことである。大変興味深いことに、時間が立つと共に「ハンニチ」企業とも呼ぶことができる(ハンガリー日系企業)特有の文化を持つ企業文化が生まれて来たように感じる。それが何処まで発展し、ハンガリーの企業文化を染めていくのか面白い課題である。
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どこの企業でも人事では色々と問題を抱えている。採用から、給料・給与に対するポリシーと給料設定にかけて、従業員の評価、キャリアーパス対策まで様々な因子がある。異文化の働く企業も基本的に同じ課題、同様な問題を抱えることになるが、人事の基本的な考え方、問題の原因の解釈、問題意識の内容又そのレベルに大きな違いが見られる。
ハンガリーの労働法は2023年1月1日より変更となることが決定された。労働法関連規制は以下の内容の法案が議会に提出された。